
14日夜、福島県喜多方市山都町の一軒家で、窓から侵入したクマに飼い犬が襲われ死亡する事件が起きた。人への被害はなかったが、平穏な暮らしの中で起きた突然の惨劇に、地域の住民は深い不安を抱いている。
■ 静寂を破った咆哮
午後9時過ぎ。山間の集落を包む夜の静けさを破ったのは、飼い犬の必死の鳴き声だった。異変を感じた飼い主の男性が窓を開けた瞬間、目の前に現れたのは体長1.5メートルほどのクマ。
「カーテンが一瞬で引き裂かれた。恐怖で体が動かなかった」と男性は振り返る。
男性が家族を呼びに行ったわずかな隙に、愛犬はクマに襲われ命を落とした。家族にけがはなかったものの、飼い主は「10年以上一緒に過ごしてきた大切な家族を失った。悔しくて、悲しくて言葉にならない」と声を詰まらせた。
■ 広がるクマの脅威
福島県内では今秋に入ってクマの目撃情報が急増している。県自然保護課によれば、今年の出没件数はすでに 過去10年で最多ペース。山間部だけでなく市街地近くでも確認されており、生活圏への接近が顕著になっているという。
背景にはドングリやクリなどの餌不足があるとされる。冬眠前に栄養を蓄えようと活発に動くこの時期、人里への出没はさらに増える可能性がある。
■ 不安に揺れる地域社会
事件後、近隣住民からは不安の声が相次いだ。
「もし子どもが庭で遊んでいたらと思うと怖い」
「犬が犠牲になったのは本当に痛ましい。次は人間かもしれない」
集落では防犯ベルや花火を備える家庭も出始め、緊張感が広がっている。
■ 専門家の警鐘
野生動物に詳しい福島大学の准教授は、次のように指摘する。
「犬が吠えるとクマを刺激して逆に攻撃を誘発することがある。住宅周辺で遭遇した場合は、決して近づかず静かに距離をとることが大切だ。クマを追い払うのは専門の猟友会や行政に任せてほしい」
また、夜間の窓の開放や庭に残された生ごみ、果樹などもクマを誘引する要因になるという。
■ 行政の対応と課題
喜多方市は事件を受けて、防災無線や回覧板で注意喚起を実施。市職員と猟友会が現場周辺を巡回している。だが、地域の高齢化も進み、日常的な警戒態勢をどう維持するかは課題となっている。
■ 「再び悲劇を起こさないために」
愛犬を失った飼い主は「もう二度と同じことが起きてほしくない。行政だけでなく、地域全体で備えていかないと」と訴える。
福島の山里に突きつけられた野生との共生の現実。小さな集落を襲った一頭のクマの影は、これからの地域社会の暮らし方を問いかけている。

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