
ドジャース逆転勝利の陰にあった、大谷の修正力と静かな闘志
2025年10月4日(現地3日)、熱狂のフィラデルフィア。燃え上がるレッドのスタンドの中で、ひとり青のユニフォームをまとった男が静かにマウンドに立っていた。
ロサンゼルス・ドジャースの二刀流、大谷翔平。
メジャー8年目にして初めて迎えたポストシーズン登板の夜だった。
■ “最初の3失点”が教える、ポストシーズンの現実
1回は完璧。だが2回、試合は突然揺れた。
先頭打者を出した後、J.T.リアルミュートに外角スプリットを拾われ、ライト線を破る2点三塁打。続くハリソン・ベイダーの犠牲フライでさらに1点。
たった5球で3点。
スコアボードには「3」の数字が光り、シチズンズ・バンク・パークの歓声が爆発した。
その瞬間、ベンチのドジャースファンの心にも、わずかな不安が走った。
「このまま崩れるのか?」
だが、その問いに最も冷静に答えたのは他ならぬ大谷自身だった。
■ “修正力”というエースの証明
3回、大谷は再びマウンドに戻る。
セットポジションで一呼吸置き、ボールを握り直す。
そこからの投球は別人だった。
ストレートの平均球速は1マイル上がり、スプリットはより深く沈んだ。
3回から6回までの4イニング、被安打はわずか1。奪三振は7。
2回のミスを除けば、ほぼ完璧な投球だった。
フィリーズ打線は完全に的を絞れず、スウィングは空を切る。
リアルミュートが三振に倒れた瞬間、スタンドの熱狂が一瞬止まった。
その沈黙の中に、「オオタニの修正力」への畏怖が滲んでいた。
■ スタッツ以上の“価値”
最終ライン:
6回 3失点 9奪三振 被安打3 与四球1
紙の上では「まずまず」だが、内容は圧巻だった。
試合後、デーブ・ロバーツ監督は語った。
「序盤はボールが高かった。でもショウヘイはすぐに修正した。6回を投げ切ったことが、この試合を勝ちに導いたんだ」
監督の言葉どおり、この6回はドジャースに“時間”を与えた。
大谷が踏ん張ったことで、ベンチは攻撃の糸口を探す余裕を得た。
■ ドジャース打線の逆襲
6回表、ようやく反撃の狼煙が上がる。
キケ・ヘルナンデスのライト線を破る二塁打で2点を返し、3-2。
フィリーズ先発クリストファー・サンチェスの勢いが止まると、球場の空気が変わった。
そして7回。
テオスカー・ヘルナンデスが放った打球は、レフトスタンドへ一直線。
逆転3ラン。
ベンチを飛び出すヘルナンデスに、ベンチ奥から誰よりも大きな拍手を送ったのが大谷だった。
■ 打者・大谷は沈黙、それでも存在感は消えず
この日、大谷は打席では4打数4三振。
サンチェス、ストローム、アルバレスと続く左投手リレーの前に快音は聞かれなかった。
しかし、表情は崩れない。
ベンチではチームメイトと投球の話を交わし、後輩たちに声をかけ続けた。
勝利の瞬間、彼は笑顔でヘルナンデスを迎え入れた。
「自分の打撃がどうであっても、チームが勝つことがすべて」
その姿勢が、まさに“リーダー大谷”を象徴していた。
■ “投手・大谷翔平”の新たな始まり
右肘の手術からわずか1年。
リハビリを経てここまで戻ってきた大谷は、ポストシーズンという最も厳しい舞台で再び証明した。
データ的には特筆すべき数字がもう一つある。
この日、大谷のスプリットの空振り率は驚異の54%。
ポストシーズンの登板としてはドジャース史上でもトップクラスの数値だ。
つまり彼は「速球を軸に抑えた」のではなく、「フィリーズ打線を読み切った」と言っていい。
■ 勝利の余韻、そして次戦へ
試合はドジャースが5-3で勝利。
シリーズは1勝0敗とリードを奪った。
試合後の大谷は報道陣にこう語った。
「初めてのポストシーズン登板というより、チームとして勝てたことがうれしい。次はもっと長く投げたい」
言葉は淡々としていたが、その奥には確かな闘志があった。
6回3失点。数字の裏にあるのは、“エースとしてチームに勝機を残した”という何よりも重い仕事だった。
■ そして、物語は続く
この夜、ドジャースに勝利をもたらしたのは、ヘルナンデスの一振りかもしれない。
だがその一振りを呼び込んだのは、6回のマウンドで踏ん張った大谷翔平の姿だ。
2025年秋。
二刀流は新たなステージへと歩みを進めた。
この試合は、ただの「1勝」ではない。
**“大谷翔平という投手が帰ってきた夜”**として、MLBの記録にも記憶にも刻まれるだろう。
【試合結果】
NLDS第1戦:ドジャース 5-3 フィリーズ(フィラデルフィア)
勝:E.フィリップス(LAD)
負:J.アルバレス(PHI)
本塁打:T.ヘルナンデス(LAD)=7回表3ラン
大谷翔平:6回 3失点 9奪三振、打撃4打数0安打4三振

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