
勝てばポストシーズン継続、負ければ即シーズン終了──。2025年のナショナルリーグ・ワイルドカードシリーズ第3戦、サンディエゴ・パドレスは頼れるベテラン右腕、ダルビッシュ有に運命のマウンドを託した。舞台はシカゴ。かつて彼がカブスの一員として4年間を過ごし、多くの声援を浴びた場所だ。しかし、因縁の地での大一番は、ダルビッシュにとってあまりに残酷な結末となった。
2回途中で無念の降板 ポストシーズン最短の登板
初回、ダルビッシュは落ち着いた立ち上がりを見せた。速球は92マイル前後、得意のスライダーやカットボールも織り交ぜ、先頭打者を打ち取る。だが続く打者にヒットを許すと、わずかな制球の甘さをカブス打線は逃さなかった。2回、連打と適時打で早くも2点を失い、わずか 1回1/3・4安打2失点・1奪三振 で降板。これは彼のポストシーズンキャリアで最短の登板となった。
マウンドを降りる際、シカゴのファンからは拍手とブーイングが入り混じった声が飛んだ。かつての本拠地でありながら、今は敵将として立つダルビッシュ。その姿には、プロ野球選手としての宿命が重くのしかかっていた。
故障と闘い続けたシーズン
今季のダルビッシュは決して万全ではなかった。春先から右肘の炎症に悩まされ、中盤以降もコンディションの波と闘いながらローテーションを守り続けた。防御率や登板イニング数は全盛期と比べれば落ちたが、それでもシーズンを通してパドレスの投手陣を支え、チームをポストシーズンへ導いた。
38歳という年齢を考えれば、その存在感はむしろ際立つ。若手と比べて球威では劣るが、球種の多彩さや配球術で勝負を続けてきた。だからこそ、勝負のかかった舞台での早すぎる降板には、本人も「不甲斐ない」と肩を落とすしかなかった。
ダルビッシュの言葉とファンの反応
試合後、ダルビッシュは淡々と語った。
「チームに申し訳ない。体の状態もあったけど、ここで結果を出せなかったのは自分の責任です」
その言葉には、ベテランならではの覚悟と悔しさがにじむ。SNS上では、シカゴ時代のファンから「ユウ、君は今でも誇りだ」と労う声や、「敵としての登板は複雑だった」といった複雑な感情が寄せられた。一方、パドレスファンからは「シーズン通して支えてくれたのは間違いない」「まだ来年がある」と、労いと期待の声が相次いだ。
経験と功績、そして未来
ダルビッシュはMLBで通算2000奪三振を超え、日本人投手の歴史を塗り替えてきた存在だ。レンジャーズでデビューし、ドジャース、カブスを経てパドレスにたどり着いた。そのキャリアは華やかな栄光と同時に、幾度もの故障との戦いでもあった。
今季の結果だけを見れば悔しさが残るが、チーム内での存在感は依然として大きい。若手投手にとっては手本であり、クラブハウスの精神的支柱でもある。
38歳シーズンを終えた今、来季以降も現役を続けるかどうかは注目されるポイントだ。しかし本人は以前から「まだ投げたい気持ちがある」と語っており、今回の悔しさがその思いをさらに強くする可能性は高い。
終わりに ― 苦い結末の先に
シカゴでの第3戦は、ダルビッシュにとって決して満足できるものではなかった。だが短い登板の裏側には、故障を抱えながらもチームをここまで導いたシーズンの努力がある。
シカゴの風は冷たく、結果は無情だった。だが、この敗戦を糧に再びマウンドに立つ姿をファンは待っている。ダルビッシュ有の物語は、まだ終わらない。

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