
― 不透明な時代、「金の輝き」に安心を求めて
世界情勢の不安定さと円安が重なり、金(ゴールド)の価格がかつてない高値に達している。
田中貴金属工業の店頭販売価格は10月上旬、1グラム=2万円を初めて突破。銀座本店では早朝から購入希望者の列ができ、小型の金地金(延べ棒)や金貨を求める人々で賑わった。
「株は怖い。円の価値がどこまで下がるかも分からない。せめて“本物の資産”を持っておきたい」――。
70代の男性が手にしたのは、10グラムの純金バー。価格は約20万円。
店頭では、こうした少額の金を買い求める一般消費者の姿が目立っている。
■ 国内外で広がる“金ブーム”
今回の価格上昇は、日本だけの現象ではない。
世界市場でも金価格は1オンス=2,500ドル前後と過去最高水準で推移。中東情勢の緊迫化や米国の利下げ見通しの後退など、複数の要因が重なっている。
さらに、日本では急速な円安が金価格を押し上げた。
1ドル=160円台に迫る水準が続き、ドル建てで見ると横ばいでも、円換算では価格が跳ね上がる。
「為替要因による上昇が大きいが、世界的な安全資産需要も強い。投資先としての“金人気”はしばらく続く」(大手証券エコノミスト)
■ 変わる投資マインド:「守り」の資産へ
これまで金投資といえば、富裕層や資産家が中心だった。だが、近年は20代・30代の若年層にも関心が広がっている。
「円の価値が下がる中で、貯金だけでは不安」「株や暗号資産より安全に感じる」といった声が多い。
実際、田中貴金属や三菱マテリアルなどの純金積立サービスでは、新規口座開設が前年同期比2倍超に増えている。
金貨、ジュエリー、少額バーなど“手に取れる資産”としての魅力も支持を集めている。
■ 店頭混雑、小型地金は一時販売停止も
田中貴金属工業によると、需要急増により10g・20gといった小型地金の製造が追いつかず、一時的に販売を停止するケースもあるという。
都内の販売店では、「問い合わせが普段の3倍以上に増えている」「一部サイズは入荷待ち」といった声も聞かれる。
背景には、“小口でも安全資産を持ちたい”という心理がある。
「金の延べ棒は1kg単位だと800万円を超えるが、10gバーなら数万円から買える。資産の一部として保有する人が増えている」(貴金属販売会社幹部)
■ 高値の裏に潜むリスク
ただし、金価格は一方的に上がるわけではない。
世界的なインフレが落ち着き、米国の金利が高止まりすれば、金は再び下落に転じる可能性もある。
「金は“値上がりを狙う投資商品”というより、“価値を守るための資産”と考えるべきだ。短期売買で利益を追うと痛い目を見る」(資産運用アナリスト)
また、実物の金を保管するには盗難・紛失リスクや保管料が伴う。銀行の貸金庫を利用すれば年間数万円の費用がかかることもある。
そのため、純金積立や**ETF(上場投資信託)**など、価格変動に連動する商品を通じて投資する人も増えている。
■ なぜ今「金」なのか
金は利息を生まない一方で、通貨価値が不安定なときほど存在感を増す。
特に、地政学リスク・インフレ・円安が重なった今は、現金の購買力が目減りする懸念が強い。
「長期的に見れば、金はインフレに対して価値を保ちやすい。保有量を5〜10%程度に抑えて資産分散するのが賢明」(国内大手銀行・資産コンサルタント)
投資信託や不動産と違い、金には信用リスクがない。
通貨や金融機関の破綻リスクが取り沙汰されるたびに、金の人気が高まるのはそのためだ。
■ 今後の見通し:「高値安定」か「一時的な過熱」か
専門家の間では、「金価格は今後も高止まりが続く」との見方が多い。
一方で、ドル高や景気回復が進めば、一時的に調整局面に入る可能性もある。
「世界的なマネーの流れが変わらない限り、金への信頼は揺らがない。だが、過熱感には注意が必要」(貴金属アナリスト)
世界の不安が続く限り、人々は輝く金属に“安心”を求めるだろう。
しかし、金の輝きが増すとき、それは同時に社会の不安が深まっているサインでもある。
【まとめ】
- 金価格は史上最高値(1g=2万円)を突破
- 円安・地政学リスク・インフレ懸念が背景
- 店頭では購入者が殺到、小型バーは品薄に
- 一般層の資産防衛意識が急上昇
- ただし高値掴み・保管リスクには注意

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