
米国が強硬案、日本・EUは“防波堤”を築く
アメリカ・トランプ政権が打ち出した「輸入医薬品に最大100%の関税」という衝撃的な構想は、日本や欧州の強い反発を受け、最終的に 15%を上限とする妥協ライン へと収束する見通しが強まっている。
関税の“暴走”を防ぐこの合意形成の裏側には、医薬品という命に直結する分野ならではの国際政治の綱引きがあった。
背景:米国の「100%関税」発言
トランプ大統領は就任以降、国内産業保護を最優先に掲げ、特に医薬品については「海外に頼りすぎている」と強く主張。
「国内で工場を建設しない企業には100%の関税を課す」
という発言は、製薬業界だけでなく世界の投資家・患者団体に大きな衝撃を与えた。
医薬品は半導体やエネルギーと同様に 戦略物資 と位置づけられており、供給リスクをめぐる安全保障上の観点も関税政策の根拠とされている。
EUは「15%上限」を確保、日本も追随へ
しかし、100%関税が現実化すれば米国の患者負担は急増し、供給不安や価格高騰を招くのは必至。米国内の医療機関からも懸念が広がった。
その結果、EUは米国との交渉で「医薬品・半導体の関税は最大15%まで」とする合意を取り付けたと報じられている。
日本政府もこのEUとの合意を参照し、同等の条件を米国に求めて交渉を進めている。外交筋は「日本だけが不利な条件を受け入れることは考えられない」と述べており、日本も“15%上限”の恩恵を受ける可能性が高い。
日本の製薬企業への影響
日本の製薬業界は米国依存度が高い。とくにがん治療薬やバイオ医薬品では米国売上が全体の4割を超える企業もある。
- 15%関税適用時の影響
- 営業利益率の数ポイント低下
- 米国内販売価格への転嫁が難しく、収益圧迫
- 米国内生産の検討を加速
- 100%関税適用時の影響(回避された場合)
- 米国市場撤退リスク
- 患者の薬剤アクセス悪化
- 日米関係への大打撃
企業の間では「最悪のシナリオを免れた」という安堵が広がる一方、「米国内投資を迫られる」現実的な懸念も残っている。
今後の焦点
最終合意に向けて、以下の点が注目される。
- 日米交渉で“15%上限”が明文化されるか
- 例外措置の線引き
- ジェネリック医薬品やワクチンは除外されるのか
- 国内生産有無で関税率を分けるのか
- 施行時期・猶予期間
- 一気に15%か、段階的引き上げか
専門家の見方
- 経済学者:
「15%関税は国際的には妥協の産物だが、自由貿易体制からすれば後退だ。日欧はWTO提訴などの法的手段を温存すべき」 - 製薬業界関係者:
「関税以上に重要なのは“国内生産要求”。米国に工場を持つか否かで競争力が決まる時代になる」
まとめ:関税“ショック”は回避、残る現実的負担
米国が掲げた「100%関税」という極端な案は、国際交渉を通じて回避される見込みとなった。代わって「15%上限」という現実的な負担が浮上している。
製薬業界にとっては打撃ではあるが、“致命傷”には至らない。
一方で、今後は 米国内投資の圧力 や 供給体制の再編 といった、より長期的な課題に直面することになるだろう。

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