
「容認できない危険」 住民の命綱がまた一つ絶たれる
国際医療人道団体「国境なき医師団(Médecins Sans Frontières:MSF)」は9月26日、パレスチナ自治区ガザ地区の中心都市ガザ市における医療活動を一時的に中断すると発表した。理由は、イスラエル軍による攻撃の激化で、患者とスタッフ双方の安全を確保することが「容認できないほど危険」な状況に陥ったためだ。
命を救う活動が立ち行かなくなる現実
MSFはこれまで、ガザ市内で負傷者の緊急手術、慢性疾患の治療、妊産婦ケアなどを行ってきた。限られた医薬品と燃料で病院を支え、空爆や砲撃で傷ついた人々の最後の砦として機能してきた。しかし、医療施設への攻撃や周辺地域の戦闘激化により、救急搬送のルートさえも安全ではなくなった。
声明の中でMSFはこう訴えている。
「医療従事者や患者が命を危険にさらしながら活動を続けることはできない。人道的な支援を可能にする安全な環境が確保されない限り、活動を継続することは不可能だ」
医療崩壊に拍車をかける決定
ガザ地区の医療状況はすでに限界を超えている。国連人道問題調整事務所(OCHA)によると、病院の多くが破壊され、残された施設も電力不足と医薬品の欠乏に苦しんでいる。数十万人が医療を受けられない状態にあり、患者は通院や治療を諦めざるを得ないケースが相次いでいる。
現地の医師は次のように声を上げる。
「手術室は常に満杯で、止血用の物資すら不足している。MSFの撤退は、救えるはずの命が失われることを意味する」
MSFが担ってきた役割の大きさを考えれば、その活動停止は地域の人々にとって致命的な打撃だ。
NGOの苦境と人道的課題
MSFだけではない。赤十字や他の国際NGOもガザで活動を続けているが、戦闘地域へのアクセスは日ごとに困難になっている。医療施設や救急車が攻撃対象となる事態は国際人道法に違反する可能性があるが、現場ではそれを止める術がない。
人道団体の一員は匿名を条件にこう語った。
「我々は中立的であり、武力紛争のいずれの当事者にも属していない。それでも攻撃の危険から逃れられない。人道スペースが消滅しつつある」
国際社会に求められる行動
国際社会からは懸念の声が広がっている。欧州連合(EU)は「人道団体の活動は国際法で守られるべきだ」と声明を出し、米国務省も「医療従事者の安全確保は最優先事項」と発言。国連は繰り返し「人道的停戦」の必要性を訴えているが、停戦合意は実現していない。
人道支援団体にとって活動再開の鍵は、戦闘の停止と援助ルートの保障だ。MSFは「可能な限り早く現場に戻りたい」と強調するが、それは国際社会がどれだけ迅速かつ具体的に動けるかにかかっている。
生き残るための医療を
ガザに暮らす人々にとって、MSFや他のNGOは単なる医療支援団体ではなく「生き残るための最後の命綱」だ。活動停止のニュースは、戦火の下で生き延びる人々にさらなる絶望を突き付けている。
「人道的医療は戦争の道具ではなく、守られるべき権利である」。MSFのこの訴えは、国境を越えてすべての市民に向けられている。
いま必要なのは、国際社会の迅速な行動と、人道原則を尊重する確固たる意思だ。そうでなければ、戦争が奪う命はこれからも増え続けるだろう。

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